スマホゲームのガチャ確率表示は法律の義務ではない|コンプガチャ規制と自主規制の違い
ガチャの確率表示は、実は法律で義務づけられたものではありません。2012年のコンプガチャ規制が規制したのは『コンプリートガチャ』という仕組みで、確率表示を支えているのは業界団体JOGAの自主規制とApple・Googleの審査基準です。3つの違いを整理しました。
スマホゲームのガチャを回す前に、排出確率の一覧を確認したことがある人は多いと思います。この確率表示、法律で義務づけられていると思っている人が少なくないのですが、それは正確ではありません。
日本には、ガチャの確率表示そのものを義務づける法律は存在しません。2012年に話題になった「コンプガチャ規制」も、確率表示を規制したものではなく、「コンプリートガチャ」という特定の仕組みを景品表示法の既存の告示で規制したものでした。実際にいまの確率表示を支えているのは、業界団体の自主規制と、App Store・Google Playの審査基準です。
この記事では、法律が実際に何を規制していて、確率表示は何によって成り立っているのかを、3つのレイヤーに分けて整理します。
2012年のコンプガチャ規制が禁止したのは「確率表示」ではない
消費者庁は2012年5月18日、「オンラインゲームの『コンプガチャ』と景品表示法の景品規制について」という見解を発表し、2012年7月1日から適用しました。世間では「コンプガチャ規制」と呼ばれ、ガチャそのものが規制されたように受け止められましたが、内容を見ると対象はかなり限定されています。
法的根拠は、景品表示法第3条に基づく「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」(昭和52年3月1日公正取引委員会告示第3号、通称「カード合わせ告示」)の第5項です。この告示は、二以上の種類の文字、絵、符号等を表示した符票のうち、異なる種類の符票の特定の組合せを提示させる方法、いわゆるカード合わせによる景品提供を全面的に禁止しています。
ここでいうカード合わせに当たるのが、特定の複数種類のアイテムを全部揃えると別のアイテムがもらえる、いわゆるコンプリート方式です。規制の対象はこの方式だけで、ガチャ全般や確率の表示方法は含まれていません。ガチャで直接手に入るアイテムそのものは、対価を払って得る商品であり、景品表示法が規制する景品類には当たらないとされています。コンプリートの先にもらえる別のアイテムだけが景品類に該当し、その提供方法がカード合わせに当たるために禁止された、という整理です。
位置づけとしては、新しい法律や規則ができたわけではなく、1977年に定められていた既存の告示を、オンラインゲームのガチャという新しい状況に当てはめて解釈を示したものです。ただし根拠が法律と告示という法規範である以上、該当する仕組みを続ければ、景品表示法に基づく措置命令という法的強制力のある行政処分の対象になり得ます。多くの事業者がコンプリート方式のガチャをやめたのは、このリスクを避けるためと考えられます。
法律の条文自体はe-Govの不当景品類及び不当表示防止法、消費者庁の見解は2012年5月18日付けのPDFで確認できます。
確率表示を実務に持ち込んだのはJOGAの自主規制
では、いま多くのゲームで見られる排出確率の一覧は、何にもとづいているのでしょうか。ここからは法律ではなく、業界団体による自主規制の話になります。
一般社団法人日本オンラインゲーム協会(JOGA)は、コンプガチャ規制からおよそ3か月後の2012年8月15日、「ランダム型アイテム提供方式を利用したアイテム販売における表示および運営ガイドライン」を発表しました。同年9月1日の施行を予定したもので、ガチャで排出されるアイテムをすべて公表すること、確率を変更する場合は事前に告知することなどが定められています。有料ガチャの高レアリティアイテムについては、期待値を1回あたりの課金額の100倍以内、または50,000円以内に収めるといった上限を設けるか、確率そのものを表示するかのいずれかを選ぶ形になっているとされています。
重要なのは、これが法律ではなく、JOGAという業界団体による自主規制だという点です。JOGA公式サイトのガイドラインページの記載によれば、このガイドラインが適用されるのはJOGAの正会員企業に限られます。法律であれば全事業者が対象になりますが、自主規制である以上、加盟していない事業者を法的に縛る力はありません。JOGAは2016年2月にガイドラインを改訂し、同年4月1日から施行しています。
グランブルーファンタジーの騒動が確率表示を後押しした
確率表示がJOGA加盟企業の外にも広がった背景には、2016年1月に起きたCygamesの「グランブルーファンタジー」をめぐる騒動があります。
当時、低確率で排出されるレアアイテムの個別の出現確率が公表されておらず、ユーザーから疑問の声が上がりました。事態は消費者庁への相談や返金要求にまで発展し、Cygamesは謝罪と補填の対応を行ったうえで、同年3月10日から個別の出現確率を表示するようになりました。
この一件だけですべてのガチャの確率表示が義務化されたわけではありません。ただ、確率を公表しないこと自体がユーザーからの強い反発につながると業界全体が認識する契機の一つになったとされています。
Apple・Googleの審査基準も確率表示を求めている
3つ目のレイヤーが、App StoreとGoogle Playという、プラットフォーム事業者による審査基準です。
Apple App Store Review Guidelinesの3.1.1条項には、ルートボックスのような、購入によってランダムに仮想アイテムを提供する仕組みを持つアプリは、購入前に各アイテムの入手確率を開示しなければならない、という趣旨の規定があります。Google Playのデベロッパープログラムポリシーにも、同様の趣旨の規定があります。
これらはプラットフォーム事業者が定める審査基準であり、日本の法律ではありません。ただしこの基準を満たさないアプリはストアの審査を通らず配信できなくなるため、事実上の強制力を持っています。導入された時期については、Appleが2017年末ごろ、Googleが2019年ごろという報道がありますが、公式の一次資料で正確な日付までは確認できていません。
2026年時点でも、確率表示を義務づける法律はない
ここまでの3つのレイヤーを踏まえると、2026年時点の状況は次のように整理できます。
景品表示法が規制しているのは、コンプリートガチャという特定の仕組みだけです。確率をどう表示するか、そもそも確率を表示するかどうかについて、法律は何も定めていません。実務を担っているのは、JOGAの自主規制と、Apple・Googleの審査基準です。
複数の弁護士事務所が公開している解説記事でも、出現率の明記を義務付ける法律はなく、業界の自主規制に委ねられているのが現状だという指摘が一致しています。2023年から2026年にかけて、日本で確率表示を法制化する具体的な動きがあったという情報も、今回は確認できませんでした。
つまり、いまゲーム内で確率が表示されているのは、法律に従っているからではなく、業界の自主規制とストアの審査基準の両方を満たす必要があるからです。
表示した確率が実態と違った場合はどうなるか
確率を表示する義務そのものは法律にありませんが、いったん表示した以上は正しく表示しなければならないという、別の規制があります。
景品表示法第5条第2号は、取引条件について実際よりも著しく有利であるように見せる表示(有利誤認表示)を禁止しています。仮に運営が表示した確率と実際の運用が食い違っていれば、この規定に触れる可能性があります。
なお、2024年10月1日に施行された改正景品表示法では、優良誤認表示・有利誤認表示のうち特に悪質なものを対象に、消費者庁の措置命令を経ずに刑事罰(100万円以下の罰金)を科せる直罰規定が新設されました。この直罰規定は、コンプガチャ規制の根拠になっているカード合わせ告示のような指定告示違反には適用されず、あくまで確率や内容の誤表示など通常の優良誤認・有利誤認表示が対象です。ガチャの表示についても、2024年以降は行政指導を待たずに刑事罰のリスクが生じ得るようになったということです。
ただし、今回確認できた実際の措置命令の事例は、確率の数値そのものではなく、ガチャの内容や抽選方式に関する表示が実態と違っていたケースでした。
ガンホー・オンライン・エンターテイメントの「パズル&ドラゴンズ」は、2017年7月19日に優良誤認表示で措置命令を受けています。2016年11月から12月ごろ、テレビ番組でガチャから入手できる13体のキャラクター全てが「究極進化」できると発表していましたが、実際に究極進化できたのは2体だけでした。2018年3月28日には、この件で5,020万円の課徴金納付命令も出ています。
スクウェア・エニックスとgumiが共同で運営していた「ファイナルファンタジー ブレイブエクスヴィアス 幻影戦争」も、2021年6月28日に優良誤認表示で措置命令を受けました。「10連ガチャは10回分の抽選」と表示していましたが、実際には2種類のリストのどちらかを選ぶ抽選を1回行うだけの仕組みだった、というものです。
どちらも、排出確率の数値そのものを偽っていたわけではなく、手に入る内容や抽選の仕組みについての表示が実態と違っていた事例です。確率の数値を偽って措置命令を受けたという単純な事例は、今回の調査では確認できませんでした。とはいえ、表示した内容が実態と異なれば景品表示法違反になり得るという原則は、確率表示に限らず、ガチャの表示全般に当てはまります。
海外では確率表示を法律で規制する国もある
日本の状況は、海外と比べるとやや特殊です。参考までに2つの例を挙げます。
中国では、当時の文化部が2016年12月1日に関連の通知を発表し、2017年5月1日から施行されました。ガチャ(虚拟道具)の名称、性能、内容、数量、出現確率を公式サイトなどで公表することを義務化し、抽選結果の公開と90日以上の記録保持も定めています。日本と違い、法律・行政規則のレベルで確率表示そのものが義務化されている例です。
ベルギーでは2018年4月、ベルギー賭博委員会が「FIFA 18」「Overwatch」「CS:GO」などに含まれるルートボックスを、ベルギー賭博法上の賭博に該当すると認定しました。確率を表示させる方向ではなく、ガチャ(ルートボックス)という仕組み自体を賭博規制の対象にするという、日本や中国とは違うアプローチです。
法律で確率表示を義務化している国、仕組み自体を規制する国、業界の自主規制とストア審査に委ねている国とで、規制の形はかなり違います。
確率以外の話も、別の記事で扱っています
確率が分かっても、実際にいくらかかるかは別の話です。ジャンル別の課金額の傾向はスマホゲームの課金はいくらか、確定でアイテムが手に入る天井の仕組みはスマホゲームのガチャに天井はあるかで扱っています。
また、遊んでいたゲームがサービス終了するときに、課金した分がどう扱われるかは、確率表示とはまったく別の資金決済法という法律の話になります。詳しくはスマホゲームのサービス終了で課金アイテムはどうなるかにまとめました。
まとめ
- 日本には、ガチャの確率表示そのものを義務づける法律は存在しない
- 2012年のコンプガチャ規制が景品表示法の告示で禁止したのは、確率表示ではなく「コンプリートガチャ」という特定の仕組み
- 確率表示の実務を担っているのは、JOGAという業界団体の自主規制(2012年8月発表、正会員企業に適用)と、Apple・Googleのストア審査基準
- 2016年のグランブルーファンタジーをめぐる騒動が、確率表示を業界に広めた契機の一つとされている
- 2026年時点でも、確率表示を法律で義務化する具体的な動きは確認できていない
- 表示した確率や内容が実態と違えば、景品表示法の不当表示規制に触れる可能性がある。パズル&ドラゴンズやFFBE幻影戦争の措置命令は、確率の数値ではなく内容・方式の誤表示だった
- 中国のように確率表示を法律で義務化している国、ベルギーのようにガチャ自体を賭博として規制する国もあり、日本の枠組みが世界共通というわけではない
確率が表示されているのは当たり前のことではなく、法律ではなく業界団体とプラットフォームが支えている仕組みです。この違いを知っておくと、確率表示が無いゲームや、表示が分かりにくいゲームに出会ったときの受け止め方も変わってくると思います。